5月30日に発表された松井証券と一橋大学大学院による共同研究が波紋を広げている。
共同研究チームは、松井証券の顧客の株式売買履歴を研究対象として、今後の投資行動に関する基礎研究に役立てるとしている。研究成果をビジネスに転用することも明示している。
松井証券には、顧客からすでに数百件の苦情が寄せられ、取引口座の解約を申し出ている顧客もいるという。
松井証券側は、氏名など個人が特定できる情報は出さないとしており、さらに追加措置としてデータ提供を拒否する顧客は6月末(当初6月5日を延長)までに申し出ることで問題はないと考えているようだ。
法的な解釈がどうなるのか、私は法律の専門家ではないので、その点はコメントできないが、人として、ビジネスを行なう者としての常識的判断として、率直に感じる。
松井証券の感覚は、おかしい。
メディア報道でも「苦労して確立した投資手法を外部に漏らすのはおかしい」(読売新聞)等の顧客の声が掲載されている。
これは、至極あたりまえの感覚だ。
ビジネスにおける知的財産のひとつに、プロセスという概念がある。
今回の問題の焦点は、まさにこのプロセスという財産が誰に帰属するのかということではないか。
松井証券は、顧客の財産は株式売買によって得た利益だけだと考えているのかもしれないが、松井証券が顧客の売買データを分析する行為自体が、厳密に判断すれば、顧客の知的財産権を侵害する行為だと断定される危険があると、私は感じている。
コンビニ等の小売店がPOSデータやポイントカード等の会員による購買データを分析するのと同様の感覚で、売買履歴を分析しようと考えたのかもしれないが、この両者は根本的に違うデータ様式を形成している。
POSデータは個人やプロセスのデータではないし、ポイントカード等に個人を特定できる会員登録を行なう際には、そのデータを分析等に利用することを明記し同意した顧客データのみの活用に限定されている。
もし、松井証券が購買履歴の利用について、会員制ポイントカード作成時に類する手続きを踏んでいるのであれば、それは問題ないだろう。
また、個々の顧客との契約がコンサルティング契約等の形で、購買履歴等も松井証券に帰属する解釈ができる場合ならば分析をしてもよいと思われる。
松井証券が、顧客から受け取る報酬がどのように規定されているのか、私は仔細を存じ上げないが、通常の場合であれば単なる売買手数料のはずだ。
いずれにしろ、現状の松井証券には顧客の売買履歴を分析する権利はない、と私は思う。松井証券は、研究そのものは予定通り行なうとしているようだが、本当に熟考して経営判断をしているのか、少なからず疑問を感じる。
経営の根幹に関わる事態を引き起こしているという認識が必要だと思う。
松井証券の経営陣には、再考を促したい。
ビジネスに従事するものとして、何が顧客の財産であり、何が自社の財産であるのか、日頃から思索を尽くしていきたいと痛感する事件だ。
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