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2012年12月 1日 (土)

第91回桂冠塾『マリー・アントワネット』(ツヴァイク)

09111月の本は『マリー・アントワネット』です。
前回に続いてツヴァイクの作品を取り上げました。岩波文庫版で上下2巻でそれなりの長編です。

フランス革命の大激動期における最も有名な人物の一人。それがマリー・アントワネットではないかと。
欧州で栄華を極めた名家であるハプスブルク家に生まれ、もう一方の雄であるブルボン家に嫁いで華麗な人生を送った女性。
そうした印象を持っている方が多いのではと思います。
世代によっては、特に女性の方は、漫画の「ベルサイユのばら」のイメージも重なっているのかなと思います。

時代的には、ハプスブルク家やルイ王朝を築いたブルボン家などの貴族支配の絶頂期は過ぎ、王権としての疲れが見えはじめてきた頃になります。
そもそも群雄割拠の激しい欧州で、その栄華を続けることは至難の業。
新興勢力であるロシアの台頭やイギリスの勢力拡大、そして新大陸アメリカで高まってきた植民地からの独立の動き。新旧入り乱れる勢力争いに危機感を抱いた両家の間で、長年覇権を争ってきた過去を改めてひそかに同盟が画策されます。
時の為政者は、ハプスブルク家がマリア・テレサ、ブルボン家はルイ15世の時代です。

自らの栄華を維持せんとする政治的目論見によって、1766年には計画が始まり、1769年にルイ15世から書面によって11歳の少女に求婚が行われ、翌1770年にわずか14歳のマリー・アントワネットは将来のルイ16世に嫁いでいきます。
それから1793年にギロチン台の露と消えるまで、一国の贅を尽くした豪華絢爛な生活から国家的反逆者としての汚名を着た終焉まで、天国から地獄までを味わいぬいたマリー・アントワネット。

彼女の人生が前半は華々しく、後半は悲しげに展開されていきます。

ブルボン家のルイ王朝を財政的に没落させた最大の要因はアメリカ独立戦争への資金的介入であることは多くの歴史家の検証によって定説となっています。その一方でマリー・アントワネットの浪費は財政全体から見れば微々たるものという論理も通っていますが、それは庶民感覚ではやはりおかしいと感じるのではないでしょうか。

マリー・アントワネットの洋服ひとつだけで庶民の数年分の生活費であったことには違いはありません。
庶民が苦しんでいるときに、何も知らなかったとはいえ個人的な楽しみのためにパーティに興じていたというのは、支配者階級の人間としては責めを負う原罪になるでしょう。
現代でも不作為による罪は処罰の対象ですが、支配者階級と被支配者階級との違いがさらに大きかった貴族社会においてはなおさらではないかと感じます。

確かにルイ16世とマリー・アントワネットには不運がついて回ります。
「この時点で悔い改めていれば...」という場面が何度も訪れますが、結局最悪の状態になるまで従来の生活を変えることはありませんでした。

フランス革命の動乱の前半期を生きたマリー・アントワネットを評して、ツヴァイクは本作品に「一平凡人の面影」との副題をつけています。
正直な印象として「どこが平凡なの?」というのが率直な感想ではないかと思います。
おそらくツヴァイクは、支配者階級の人間としての能力や自覚のないマリー・アントワネットの無恥さと無知さ、そして人間として成熟していない幼稚さを指して「平凡」と表現したのかもしれません。

しかし、それは本当の意味での「平凡」ではない。
無自覚な人間が権力の座にいること自体が悪業であるというわかりやすい事例であったようにも感じます。
しかしこの時代、マリー・アントワネットだけが悪業の権化だったわけではありません。多くの人物が右往左往し、価値観も生命倫理も右に左に振り子のように揺れ動きました。
昨日の敵が今日の友という状況も日常茶飯事。
簡単に人の生命が抹殺された。
その典型がロベスピエールだったり、ギロチン台だったりした。
この次の時代に登場するナポレオンも決して例外ではない。
そんな価値観が定まらない不安定な時代の象徴がマリー・アントワネットだったともいえるのではないかと思います。

ネットではあちこちで比較的高い評価が書き込まれている印象がありますが、作品に対する個人的な感想はさほど多くなかったのも、意外といえば意外でした。
文学というものに何を求めるかという価値観の違いかも知れません。

《当日の開催要領などはこちら》
http://www.prosecute.jp/keikan/091.htm

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