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2012年9月28日 (金)

「今の日中は戦術的互損関係」 果たしてそうだろうか?

今日の発言で新しく自民党副総裁に就任した高村正彦氏の言葉が気になった。

安倍晋三総裁は中国との問題を必ずうまくやる。前に首相をしていたとき胡錦濤国家主席と戦略的互恵関係を打ち立てた。今は目先のことにこだわり、お互いが損をする『戦術的互損関係』だ。本来の関係に戻ってもらうため精いっぱい支えていきたい。
(MSN産経ニュースより)

戦術的互損関係...果たしてそうだろうか?
確かに日本にとって現在の状況は大きな損失である。
しかし中国にとって何か損失があるだろうか。
少し冷静に観察してみれば多くの人はわかると思う。

今の中国に大きな損失など何もない。

いまや世界的な大国となった中国にとって、日本は大した価値などないと考えているとしたら...そのような視点で一連の騒動をみてみると意外とすっきりとする。
確かに尖閣列島の領有問題で何らかの国際的な支持が少しでもあれば、中国の領海は確実に広くなり、海底地下資源の面でも漁業権の面でも、中国にとって大きな収穫になる。そして、もし尖閣問題が日本の全面勝利と終わったとしても、中国にとっては他の大きなメリットを得るのではないだろうか。
たとえば経済活動という一つの角度でみてみると...

中国は、一連の騒動を理由にして日本企業を中国から退去させる。
日本製品の中国への輸入を全面禁止する。
もしくは大幅に制限して、高い関税をかける。

中国がこうした制裁に出てくることは必至だ。国際世論も支持まではしなくても、結果的には中国のやることに対して静観することになると考えられる。
既に日本メーカーの技術を充分に習得した中国にとって、国内企業のシェアを拡大させる絶好のチャンスと活かすことができる。中国メーカーにとってはこれ以上ないというくらいの朗報となるだろう。
そのうえで、国内企業で賄いきれない需要分(賄いきれないのが現実である)を、日本との交渉で譲歩して日本企業に部分開放したという形にすれば、日本に恩義を売ることもできる。
そして、今後問題が起こったら「尖閣を奪った日本が...」と常に非難しつつ「日本には恩義を与えたではないか」と言い続けることができる。

領土問題ももちろんだが、中国としては常に全方位型の外交が行われているように感じる。現在の日本政府のそれと比べると、雲泥の差、子供と大人の違いすら感じてしまう。
そうしたことを中国が意図しているかどうかは別としても、少なくとも日本国政府にはそうした対応をするだけの経験もノウハウも技量も持ち合わせていないだろう。
外交という舞台では、今の日本国政府は中国にとって赤子の手をひねるようなものだという認識を、私達は今一度明確に持つべきではないかと思うのである。

では日本の立場として、何をどうすればよいのだろうか。
百戦錬磨の中国の外交に一朝一夕で対抗できるはずもない。
たしかに大局的、長期的なポジショニングとして、日本はアジアの領袖としての役割を果たし続け、その過程で構築したアジア各国との互恵関係をベースとして、日米安保のパワーバランスも充分に利用しながら、大国中国との外交交渉に臨むことが求められている。
それは今から始めることが必須であるが、実効力を発揮するのはしばらく先の話になるだろう。

今は国際司法裁判所に訴えることも意味がないわけではないが、それよりも苦悩する当事国として、国連に事態収拾の仲裁を嘆願するほうがずっと賢明ではないかと思う。
そうでもしないと「日本は法律を盾にして理屈で自国の主張を通そうとしている」「人情のない国だ」との批判を浴びかねない。すでに諸外国の一部でみられる「日本は侵略の過去を反省していない」との批判はまさにそうした「情のなさ」が根底にあるのではないか。平たく言えば「日本の主張は理屈で言えばわかるけど、そういう言い方はないんじゃないの?」ということではないか。「侵略についての反省のなさ」との指摘はそうした人間としての精神面の所作を言っているのだと私は思う。

かつて戦後の日本は、西欧各国から「エコノミック・アニマル」と蔑まれてきた経緯も、私達は思い出さなければならない。金や物質的欲望のためには”動物”になり下がるような民族だという認識が、海外各国の人々の間にいまだ根深く残っているとしても驚きには値しない。
それも元はと言えば、戦争を通じて侵略行為を行なってしまった「侵略国日本」から起因している。

個人的な意見としては、今回の騒動を機縁として、こうした領有問題など複数の国家間で紛争手前の状況になった場合は当該地域を国連が直接統治しながら問題解決に当たる等のスキームの確立が必要ではないかと考えている。

そのうえで今回の現実の対応としては、日本国民の利益と安全のために嵐を耐え忍び、沈静化することを待つしかない。
つらい中国での雪解けの時代に耐えて中国国内での足元を固めてきた日本企業にとって、いま中国から撤退することは目前の危機回避にはなっても、長い目で見れば明らかに損失が大きい。
中国国民の人件費が次第に高くなって中国に進出した日本企業のメリットがなくなってきているという評論家もいるだろう。しかし人件費が高くなっているということは、中国国民の生活水準が上がってきているということであり、生産地としての市場の魅力に加えて消費地としての市場が成長してきたということでもある。
辛抱して頑張ってきた中国進出の日本企業にとって、15億人とも言われる世界最大規模の成長市場に商品を供給することなく撤退することは、何ともやりきれない事態だと私は思う。

尖閣列島問題は、二国間の領有問題には違いないが、領有問題だけではない。
少なくとも、中国にとってはそうだろう。
決して「互損関係」ではないのだ。
日本国政府は、より広い視座に立って、大局的な政治判断をするべき重要な局面を迎えている。

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