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2008年5月27日 (火)

第38回桂冠塾 『若きウェルテルの悩み』を読む

038 5月24日(土)に今月の桂冠塾を開催しました。
今月の本はゲーテの『若きウェルテルの悩み』です。

ゲーテは1749年にドイツ・フランクフルトに生まれた世界的な名声を博している詩人、作家です。作品を読んだことはなくても、その名前を知らない人は稀だと言っていいでしょう。
代表作には『ファウスト』が挙げられますが、今回は短編の中の名作といわれている本作品を取り上げました。

作品のストーリーや背景などは桂冠塾のページを参照下さい。
第8回桂冠塾 実施内容
本作品を読まずに書評やあらすじだけを読んだ人の印象と、全編を読み通した人との印象は、かなり違いがあるのではないかと感じています。
それは作品の底流に流れるゲーテ自身の思想が随所に織り込まれているからではないかと、私は思います。
あらすじだけを追ってしまえば...
主人公ウェルテルは、ロッテという女性と初めて出会った時からその魅力の虜になる。舞踏会で出会った彼女には既に婚約者がおり、その男性アルベルトはウェルテルの先輩の法律家でもあった。寛容なアルベルトはウェルテルと親しい友人として接するがロッテへの思いに耐えかねたウェルテルは別の町の公使館に職を得て彼らの元から去っていく。新しい赴任先では人間関係に悩み、そんな最中にロッテの結婚の報を聞いたウェルテルは放浪の旅に出て、結局ロッテ夫婦の住む街に舞い戻ってしまう。次第に精神の均衡を崩していったウェルテルは回りの人達にその思いを隠すこともせず、自殺の道を選び、物語はジ・エンド。ロッテも最終章に至って自身の本当の気持ちに気づくが何もすることができなかった....。
そんな物語です。

一読すると、そんなラブストーリー。
確かに当時を生きた民衆の感覚からみれば、純愛の心に純粋に生きるがために自殺という道を選ぶという選択肢は衝撃的であった。しかしそれも今からみれば定番と化した純愛小説だ...。
そんな評価をする人もいるかも知れません。

作品を構成する書簡ひとつひとつをゆっくりと読み進めると、ある事実に気づくはずです。ラブストーリーという筋書きからみれば、あってもなくても大差ない手紙がいくつもあるという事実。これらの手紙を通して語られるゲーテ自身の思いこそが『若きウェルテルの悩み』を名作に高めている大きな要因、魅力ではないかと、私は感じています。

一例として、「不機嫌」について書かれた箇所を挙げてみましょう。
7月1日付の比較的長くなっている手紙の一部分です。
*****
不機嫌というやつは怠惰とまったく同じものだ。(中略)
ぼくたちはそもそもそれに傾きやすいんだけれど、もしいったん自分を振い起す力を持ちさえすれば、仕事は実に楽々とはかどるし、活動しているほうが本当にたのしくなってくるものです。(中略)
自分をもはたの人をも傷つけるものが、どうして悪徳じゃないんでしょうか。(中略)
不機嫌でいてですね、しかもまわりの人たちのよろこびを傷つけないようにそれを自分の胸だけに隠しおおせるような、それほど見上げたこころがけの人がいるんなら、おっしゃってみてくださいませんか。むしろこの不機嫌というものは、われわれ自身の愚劣さにたいするひそかな不快、つまりわれわれ自身にたいする不満じゃないんですか。また一方、この不満はいつもばかげた虚栄心にけしかけられる嫉妬心と一緒になっているんですよ。仕合せな人がいる、しかもぼくらがしあわせにしてやったんじゃない、さてそういう場合に我慢ならなくなってくる、そういうわけじゃありませんか。
*****

実に身に迫る洞察だと私は感じました。
こうしたゲーテ自身の思想が底流を流れ、そしてウェルテルの行動の淵源となって作品に深く結びついている。これが『若きウェルテルの悩み』の作品としての欠かすことのできない深みとなっているのだと感じます。
このほかにも、ウェルテルが回りの人達をどのように見ているのかという場面場面での描写、精神的に病を患ってしまった作男と「おまえがしあわせだったとき...」と語り、その人生の来し方に思いをはせる場面など、細やかな心的描写とゲーテの思想が随所に織り込まれていきます。
そして圧巻は、ウェルテルが訳したオシオンの歌をウェルテル自身が朗読し、ロッテが自身の真実の思いに手が届くシーン。ここは今一度、実際にじっくりと読んでいただきたいと思います。

どこまでも、人間の心の底にある真実を見つめようとしたゲーテ。
幸福も不幸も結局は一人の人間の生命の底にある。
ゲーテは語る。
「人は誰でも生まれながらの自由な自然の心を持って、古くさい世界の窮屈な形式に順応することを学ばなければならないのだ。
幸福が妨げられ、活動がはばまれ、願望が満たされないのは、ある特定の時代の欠陥ではなく、すべて個々の人間の不幸なのである」

【関連リンク】
第8回桂冠塾『若きウェルテルの悩み』 実施内容
ウェキペディア ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
 

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